建築家が遺した椅子の再生事例
2020.12.22
今年も残すところあとわずかとなりました。
本日ご紹介させていただくのは、今年最も心に残ったメンテナンスの案件です。
お客様宅は、建築家 村野藤吾が昭和の初めころに設計した社屋と住宅。
ご依頼を頂いたのは、当時村野藤吾がデザインした、籐網みの応接椅子6脚のメンテナンスです。
裏を返せば「大阪 三越家具」の文字。
もちろんこのラベルも残します。
歴史を感じる素晴らしい椅子ですが、背中の籐は手編みのしかも二重張り。
このような手のかかった椅子は、見るのも初めてでどこにお願いしてよいかもわからず、
いろいろご相談した結果、県外の若い椅子職人さんと出会うことができました。
この職人さんも、籐の手編みは初めてとのことで「これも勉強」と快く引き受けてくださいました。
ところが、古い籐を外して編み始めると、時間がかかる、かかる。
職人さんも引き受けた手前、不満はおっしゃっておられませんでしたが、
10センチ四方を編むのに慣れない最初は8時間かかったとか。
二重張りの片面を編み終えてから、もう片面に移ると、大変編みにくかったとか。
斜めに編み始めた時、初めて形になってきて、本当にうれしかったと職人さんが仰っていました。
塗装前、張り終わった状態。塗装するのがもったいないくらいきれいです。
塗装後。椅子が完璧によみがえりました。
最終的に、たくさんの応援を頼んで張り終えた椅子は、ピンと張った籐のつややかさと、
座り心地の良さが蘇り、更に威厳が増したようです。
素晴らしい建築家が遺した椅子を、職人さんとの出会いによって
次の時代に伝えるお手伝いができ、本当にうれしかった案件でした。