働き方改革における問題点として、管理職への仕事のしわ寄せや負担増が当初から懸念されています。これらについて、企業としていかに対処していくべきなのでしょうか。管理職の負担が増大する理由と、働き方改革によって管理職の負担を増やさない対策を考えてみましょう。
雇用されている側にとってはメリットが大きいはずの働き方改革ですが、実施によって管理職にしわ寄せがいきやすいとされる理由には、以下のようなものがあります。
働き方改革に盛り込まれている制度のうち、管理職への負担増になりやすいのが「高度プロフェッショナル制度」です。平成28年4月に施行された「労働基準法等の一部を改正する法律案」の中で、以下の条件に該当する労働者には、高度プロフェッショナル制度が適用されることとなりました。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、労働時間制限や休日、割増賃金といった規定から除外されます。いわゆる「裁量労働制」に近い形です。上記項目に該当する割合は管理職になるほど多くなり、結果として管理職の労働環境が悪くなるケースが予想されます。
働き方改革の一環として、有給取得や残業時間の制限を実施した場合、従来の方法で部下の勤務状況を正しく把握するのが難しくなることも、管理職にしわ寄せがいくとされる理由の1つです。勤務状態の管理だけでなく、人事考課に関する方針が定まっていない場合も、管理職の負担は増加します。
繁忙期に有給を取得する部下が増える、引継ぎ体制が整わないまま配置換えを行う、といった改革だけが先行してしまうと、高度プロフェッショナル制度の導入で賃金が低下する恐れもあるでしょう。
働き方改革の実施によって、一時的に管理職へ仕事のしわ寄せがいくことはある程度想定されるとしても、長期間負担を放置していると、企業にとっての損失にも繋がります。
仕事の負担が増えるうえに、賃金や休日のメリットもなくなってしまうとなると、管理職にとっては企業で働く意義を失うことにもなりかねません。雇用者の環境を考えることも大切ですが、そのしわ寄せが管理職へと流れ、最悪の場合、高度な知識と経験を有する社員の離職を招く可能性もあるのです。
たとえ離職を選ばなかったとしても、忠実に職務を全うする管理職が過労に陥ったり、体調を崩してしまう場合もあるでしょう。働き方改革の導入でかかる負担が原因で、本来の職務に支障が出てしまうようでは、本末転倒です。
働き方改革において自己の負担増に耐え続けた結果、管理職労働者にとって、多様な働き方は受け入れられないものとなる可能性も懸念されます。働き方改革の本質が企業全体の意識改革であることを考えると、管理職への仕事のしわ寄せを放置することは、企業にとってデメリットしかないといえるでしょう。
働き方改革では、管理職の労働者にとってもよりよい職場環境が提供されなければなりません。管理職への過度な負担を取り除くためには、以下のようなポイントを重視することが大切です。
割増賃金や労働時間制限の規定から除外対象とされる「高度プロフェッショナル制度」は、適用される職種に明確な基準はないものの、厚生労働省から以下のような職種が適用例として挙げられています。
上記業務は、いずれも従事した時間と成果との関連性が高くない業務と想定されています。他の職種であっても同様に、業務にあたる時間と経営活動が必ずしも比例しない場合において、労働者の健康確保を前提としたうえで適用される制度と理解する必要があるでしょう。
働き方改革の実施が、管理職の負担を増加させる一因とならないためには、経営陣のサポートも大切です。人事管理の手間が増える場合は、管理職が持つ他の業務を分散させたり、事前に企業全体の業務状況を細かくチェックしたりしましょう。
具体的には、無駄な業務の排除や外注の可否、社員の決定や裁量の枠を広げて管理職の管理負担を軽減する、といった方法が有効です。
家庭の事情を優先したい人もいれば、賃金を重視する人もおり、現状どの程度の負担に耐えているかも、管理職によってさまざまです。多様な状況を把握し、企業一丸となって適切な改善を行うことが、真の働き方改革だといえるのではないでしょうか。
参考資料:
厚生労働省『「労働基準法等の一部を改正する法律案」について』