新型コロナウイルスの問題で、一気に広がったリモートワークですが、その生産性については議論が分かれています。今後、様々な形が模索されていくと考えられますが、リモートだけオフィスだけという風に考えるのではなく、両者の良い部分をうまく取り入れていくのが、今後のスタンダードになっていくと考えられます。それぞれにどのような課題があり、どのような施策をとれば良いのでしょうか。
緊急事態宣言の広がりを受けて、全国に広がりを見せたリモートワーク。
複数の調査がありますが、実施率は1割強〜2割強へと倍近く伸びています。
緊急事態宣言の終息後は、他国でも見られたようなオフィス回帰の流れが、日本でもいったん強くなると考えられます。しかし、一度でもリモートワークという手段を経験したことから、経営者側も労働者側も気軽に選択肢の一つとしてリモートワークを検討出来るようになりました。そのため長期的に見れば、今後もリモートワークは増えていくと考えられます。
○リモートワークの生産性
そんな広がりを見せるリモートワークですが、導入すると業務の生産性は高くなるのか・低くなるのか、その判断が話題となっています。
世の中に出てくる記事やニュースなどをみると、基本的な論調としては緊急事態宣言開始直後の記事では、リモートワークは生産性が高くなるという内容の記事が多く、時間が進むにつれてトータルの生産性ではやはりオフィスワークのほうが生産性は高くなるといった論調が増えているように思われます。
これまでの記事では、どのようなことが言われているのでしょうか。
・集中して「作業」が可能
テレワークでは不要不急の打ち合わせや依頼、電話・来客対応などがなくなるため、「作業」に集中することができるメリットがあります。よって、「作業」が中心のIT系の技術職などで生産性が明確に向上しているほか、資料作成など創造性を発揮する業務でも生産性が高まっており、PCを使って一人で作業する業務が多い職種でとくに生産性の向上が見られます。
・通勤時間がなくなり全体として負担が減る
東京・大阪などの大都市圏では、通勤時間がなくなることのメリットも非常に大きくなっています。従業員にとって、給与の発生しない通勤時間は無駄でしかありません。プライベートの時間も増えることで、メンタル面での改善がみられます。また満員電車の負担もなくなることで、体力的な負担も減少しています。
・住む場所などの制限がなくなり、個人として最適な環境で仕事ができる
また通勤しなくて良くなると、無理に都心に住む必要性もなくなります。
そのため家賃が安い地域で、より快適な住居を借りることができることも生産性が向上する理由となっています。
・簡単な相談ができず、トータルとして作業が滞る
リモートの場合は作業中にわからないことが発生しても、簡単に上司に相談するということが難しくなります。自分自身で判断ができるベテランの従業員は問題ありませんが、若手が多い職場では相談ができないことによる業務の停滞が発生します。
・コミュニケーションが不足し、革新的な価値が生まれにくくなる
生産性は作業の量だけで決まるわけではありません。そもそも生産性とは、価値全体の上昇によって算出されます。作業がいくらはかどっても、作業のベースとなる仕事の価値が下がっていたのでは意味がありません。
・社員のメンタルヘルスの不調
リモートワークが広がるなかで、多く耳にするようになったのが社員のメンタルヘルスの不調です。通勤や移動をしないことによる運動不足や、本来仕事をする場所でない自宅で作業することによるストレス、オンとオフがうまく切り替えることができない、1日の会話がほとんどないことによるストレスなどがあげられます。
・まずはリモートワークを行う業務を適切に決定
リモートワークで生産性が高まる業務、下がる業務があり、それらを適切に判断するのがまずは重要です。サービス業や総務など、ネット対応がまだまだ難しい業務はどうしても生産性が下がってしまいがちです。しかし、リモート営業が浸透した営業職や、集中して1人で作業することが多い技術職などは生産性が向上することが多いようです。
・リモートワーク単体では考えず、リモートとオフィスのハイブリッドでの業務設計を行う
そもそもリモートワークを導入すれば、オフィスワークはゼロにしなくてはならないという決まりがあるわけではありません。大学での遠隔授業の満足度調査によると、100%遠隔ではなく最初の数回は対面授業にし、その後は遠隔授業にするという形をとった授業がもっとも学生の満足度が高かったそうです。
同様に、企業でもリモートワークとオフィスワークを組み合わせることで、両方の良さを良いとこ取りするのがおすすめです。
・ハイブリッドワークを最適化するオフィス設計を行う
基本的にリモートワークは集中しての作業、オフィスワークはコミュニケーションを増やし、創造性の高い業務に取り組む必要があります。また自社のコア業務にあわせて、立地や規模なども多様な選択肢が生まれてくるでしょう。
・コミュニケーションをデザインして、オフィス・ICT機器利用・社内コミュニケーションルールを作る
オフィス内だけでなく、リモートワーク対象者も含めたコミュニケーションの取り方をデザインしていく必要があります。まずは社員のIT環境の充実や情報漏洩への対応などの基本から、オンラインでのシステムの導入なども検討する必要があります。
ここまでの状況をまとめると、新しい価値を創造する業務はオフィス、集中しての作業や営業活動はリモートという分担が生産性を高めるために有効だといえます。
そして、オフィス内、オフィスとリモートのコミュニケーションの仕組みの構築が、今後のオフィスの肝となってくるといえるでしょう。