従業員のメンタルヘルスの問題は、これまで従業員の自覚に任せるだけで終わることが多かったように思います。しかし近年では、福利厚生ではなく経営の投資として企業全体で取り組む事例が増えてきています。どのような取り組みが行われているのかまとめてみました。
2015年12月から、従業員が50人以上の企業にストレスチェックが義務化されるなど、近年は従業員のメンタルヘルスに注目が集まっています。
業務の多様化や失敗が許されない業務の増加などにより、メンタルヘルス不調の従業員が増加。その結果として個々の仕事の質だけでなく、組織全体の活力が失われることが問題となっているのです。最悪、精神疾患による休職や離職にもつながってしまい、さらなる労働力不足で企業の業績低下にもつながっています。最近では新型コロナウイルスによる新たなストレスも増加しており、従業員のメンタルヘルスケアの取り組みは、さらに重要なものになってきています。
そして、まずはこのような状況を回避することからスタートし、さらに一歩すすんで従業員の健康保持・増進に取り組むことで、逆にパフォーマンスの向上につなげていこうとするのが、経済産業省が推進する「健康経営・健康投資」という考え方です。
従業員の活力向上から、人材の採用・定着、生産性の向上を図り、企業の業績アップにまでつなげていく取り組みです。
従業員のメンタルヘルス向上に関しては、様々な方向から取り組みが行われていますが、オフィス環境整備もその一つとして取り上げられることが増えてきています。
快適性を感じる緑化したオフィス、体を動かすための立ち仕事スペースや社内ジムの設置、健康メニューを提供する社員食堂、手洗い・うがいの徹底のためのトイレタリーの充実、健康意識を高める健康測定ブースの設置などその取り組みは様々です。
そして、メンタルヘルスで問題になる第1位が人間関係です。
この人間関係がメンタルヘルスに大きくマイナスになる事例では、いわゆる雑談が少なくなり業務上でのコミュニケーションで、強くストレスを感じるようになってしまうといった事例が多く報告されています。
メンタルに響く業務上のマイナスなども、上長にあたるような人物と日々の雑談ができていれば、ストレスが緩和される場合が多くあります。
オフィス環境としてまず出来ることには、こういった雑談を生むようなゆとり・遊びのあるオフィスレイアウトの導入があります。
社内カフェやマグネットスペースとよばれる、部署を超えて社員同士が出会い雑談ができる場所を、できれば社内の中央や出入口などの人が集まりやすい場所に設置することがおすすめです。
社内報や社内イベントの告知など、会話のきっかけになるものを置いておくことで、若手社員の会社への帰属意識の高まりも期待できるでしょう。
メンタルヘルスに支障をきたした事例などで、一定数言及されるのが人間関係のよくない人物との座席環境が大きく作用しているパターンです。
もっとも良くないと言われる座席レイアウトが、学校の教室のように机が並び、一番後ろに管理職が座るというレイアウトです。
業務上ストレスを感じる人物が、後方からパソコン画面を長時間見て監視していることにより、ストレスを強く感じてしまった事例が報告されています。
このようなコミュニケーションのための空間がなく、プライバシーも守られない環境はモチベーションを低下させ、ひいては離職者の増加にもつながってしまいかねません。
上記で上げた重要となる雑談を生み、同時に大きなマイナスとなる人間関係をうまく回避する選択肢を持てるのがオフィスのフリーアドレス化です。
職場のハラスメントなどは、えてして周囲の目が少ない閉じられた環境で発生します。その点、フリーアドレスは非常に開放的な空間での業務となるため、他部署の人の目があり、ハラスメントがそもそも発生しにくくなります。そして、自由に座席を選択できることから、ハラスメントをする相手とも距離を置いて仕事をすることができます。
新型コロナウイルスの影響で自宅でのテレワークが一気に広まった際、そのメリットとして上司と会わなくて済むのでリラックスして仕事ができるという声が多くありました。少しずつオフィスでの仕事に世の中が戻りつつあるなか、人間関係のストレスが原因での退職が増加する可能性があります。
フリーアドレスを適切に構築・運用することで、逆に従業員のメンタルヘルスにプラスの効果を与えることが可能となるでしょう。
従業員のメンタルヘルスケアは、これまで企業の業績向上のための取り組みとしてはあまり考えられてきませんでした。しかし業務におけるストレスの増加や労働力不足などの問題から、これまでのように従業員の自覚だけに任せるのでなく、オフィス環境の改善など企業として取り組むことが求められています。取り入れられるものからぜひ取り入れてみるとよいでしょう。