工場における生産性向上の取り組みは、これまでに多くの蓄積があり、他業種のオフィス環境の改善にも大きな影響を与えてきました。しかしその製造業においては、えてして工場での改善だけが重要視され、併設オフィスの生産性向上はおろそかになっていたように思われます。
そして今、改めて工場併設オフィスの環境構築が見直されています。工場併設オフィスに特有のポイントについてまとめてみました。
製造業では、トヨタ自動車のジャストインタイムなど、無駄な在庫を極力なくし「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ」供給することで効率的に生産活動を行うことを目指してきました。
そのためには物や時間の流れを細かく管理する必要があり、その基礎としての5Sの取り組みは工場ではどこでも徹底されています。
しかし1分1秒を短縮し、効率化を図っている工場内と比べると、併設されたオフィスの最適化は比較的進んでいない場合が多くみられます。
ところが、最近では工場内と同様に、工場に併設されたオフィス環境の最適化が、生産性向上の観点から重要と言われるようになってきました。
そもそもどのような業種であったとしても事務作業は欠かせない業務ですし、その効率化は工場の効率化にも繋がります。また近年では快適なオフィスの存在が、女性や若手社員の採用・定着にも影響を与えているため、工場併設オフィスの環境構築には多くのメリットがあります。
工場に併設されているオフィスの役割は、工場によって多種多様です。
通常の業務でオフィスと工場との人の行き来が多い工場の場合、まずは工場からオフィスへの動線をスムーズにすることが最重要ポイントとなります。
アクセスのいい場所に出入り口を設置するのは基本ですが、ドアを手動のスイングドアにするのか、上下スライド式自動ドアにするかなど、設計時点での徹底した効率視点が必要です。
工場に併設されているオフィスの場合、コスト面を重視して業務に最低限必要な機能しかもたないことが多いです。
しかし多くの産業医から最近提言がある項目として、ちょっとした雑談を生み、コミュニケーションを活性化する場所を作ることで、社内の人間関係を円滑化し、従業員のメンタルヘルスを良好に保つことの重要性が指摘されています。
工場での仕事は、ちょっとした油断が大事故につながることがあることや、近年は昔と違って少量多品種で精度の高さが求められること、以前に比べ失敗が許されなくなってきていることから、非常にストレスフルなものになってきています。
工場では整理整頓も無事故も、均一な品質管理も予定通りの生産も、全て褒められることではなく、当たり前のこととして扱われることがほとんどです。
そのため、近年ではメンタルに不調をきたす従業員が増加しており、休憩用の明るく広い多目的スペースや観葉植物などを取り入れた目を楽しませる雰囲気作りなど、リラックスできる環境の構築が求められています。
また従業員たちが交流できる場を設けることで、チームワークの向上も見込めるようになるでしょう。
また最近では、工場の業務との円滑化を図る目的で、併設オフィスの一部をガラス張りにし工場から見えるようにするオフィスが登場しています。
オフィスの中が見えない場合、工場勤務の従業員と事務方の従業員の交流がほとんどなくなってしまい、業務の縦割りが進んで効率化を妨げることがよくありました。しかし、オフィスをガラス張りにすることで、工場勤務の従業員がオフィスに入りやすくなるため、組織の風通しが良くなるのです。
ただ、ガラス張りにする場合は注意も必要です。オフィスが工場勤務の従業員の休憩所を兼ねている場合です。この場合、せっかくの休憩が工場から見えてしまうことで、休んだ気になれないといった問題が起こる場合があります。
こうなってしまうと休憩の意味がまったくありません。別に休憩所を設けるか、目隠しになるものを取り付けることで対応する必要があるでしょう。
これまでは工場と併設オフィスの連携はあまり意識されることがなく、そもそも併設オフィスの改善に関してはあまり注目もされてきませんでした。
しかし工場での業務内容の変化や、少子高齢化による人手不足によって、併設オフィスの環境構築の重要性が高まってきています。
ただ、これまで重視されてこなかった分野のため、社内にノウハウが少ない工場も多いのではないでしょうか。やみくもに取り組むのではなく、多くのオフィスの改善に携わる専門家の力も得ながらオフィス環境の構築に取り組んでみてはいかがでしょうか。